イベントレポート鈴木赳生著『その土地に雨音は踊る――カナダ先住民運動の予示する社会』(ナカニシヤ出版、2026)公開合評会に先立って

文:大川原拓真(同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程)

2026.08.31 UP
© 2023年6月18日 鈴木赳生撮影、 ギディムテン・キャンプへ続く道

© 2023年6月18日 鈴木赳生撮影、 ギディムテン・キャンプへ続く道

今年3月、MICCSメンバーである鈴木赳生さんの著書『その土地に雨音は踊る――カナダ先住民運動の予示する社会』が、ナカニシヤ出版から刊行された。博士論文を抜本的に書きなおしたという本書は、自らも参加したカナダのパイプライン建設に反対する先住民主導の運動を手がかりに、資本と国家がかたちづくる「現実」に抗し、いまここに別様の社会をつくりだす実践とその可能性を照らしだす。

刊行からまもなく半年がたつが、本書についてはさまざまなイベントが開催されてきた。そのうち、わたしは5月に京都・誠光社でひらかれたブックトークと、8月に京都大学でひらかれた書評会に参加した。また9月26日には、MICCSが主催する合評会を同志社大学で開催する。その開催に先立ち、本記事では上記ふたつのイベントについて振り返りたい。

 まず誠光社でのブックトークでは、『生き物の死なせ方――共生・共存からはみ出した生物たちの社会学』(ナカニシヤ出版、2026)の著者である渡邉悟史さんとの対談が行われた。一見異質な組みあわせにも思える対談だったが、小さな書店を埋める20名以上の参加者を前に会が進行すると、この社会の裏側から主流を問いなおすという両者の共通の姿勢から議論は弾んでいた。

 一方、京都大学の書評会には、批判地理学に関心をもつ研究者が10名ほど集まり、桑林賢治さん(山形県立米沢女子短期大学)が評者をつとめた。議論は、カナダ史における先住民と北海道開拓史におけるアイヌの位置づけを照らし合わせるところから、二風谷ダムをめぐる運動や寿都町の文献調査、さらにはアイヌと非アイヌの連帯にまで広がった。このように本書を日本の文脈に引き寄せた論点が多く出たのがこの会の特徴だったように思う。

ここまでごく簡単な紹介になったが、一連のイベントでよく寄せられた質問とその応答については、著者本人がnoteにまとめている。本書をすでに読んだ人にとっても、これから手にとる人にとっても、格好の手引きとなるはずだ。

一方で、わたしが参加した二つのイベントで話題になっていたが、まだ載っていない議論もあった。ここでは本書の内容に触れながら、そのうち二点について書き加えたい。

一点目に、鈴木さんにとって(あるいは社会学にとって)「社会」とは何なのか、という話題である。これは誠光社では対談者の渡邉さんから質問として投げかけられていたし、京都大学の書評会でも著者による解題で言及されていた。このことについて、本書では「共同体」という言葉を意識的に用いなかったという話が印象的だった。

たしかに本書をめくると、共同体やコミュニティといった言葉が使われていない。そのかわりに登場するのは、「多者」という言葉である。第5章のタイトルが「多者が織りなす土地という社会」であることからして、本書のキーワードのひとつである。

実際に、土地を横切ろうとする一本のパイプラインに反対するのは、先住民だけではない。非先住民の環境活動家や学生、さらに現地を一度も訪ねたことのない都市生活者もいる。そこでは異なる人びとが、各自のタイミング、各自のやり方で関わりあう。人間だけではない。森と川、土と雨、動植物もまた、そこで営まれる生活運動を成り立たせている。

「共同体」という言葉が、ともすれば同じ価値観や経験を共有する人びとのまとまりを想起させるのに対し、「多者」という言葉は、それと同音異義の「他者」と響きあって、異なる存在がひとつの土地に社会をつくっていくありようを描きだしているのだ。

二点目に、パイプラインと反対運動のその後が気になるという素朴な質問もあった。これについては、建設予定のルートを一部迂回するかたちで、パイプラインは最終的に建設されたそうだ。このこともまた、本書を読むうえで無視できない事実だろう。

とはいえ、パイプラインはたしかに建設された、という「現実」を前にして、運動の成否を測る冷めた物差しも、過度の失意も不要だろう。むしろ本書が目を向けさせるのは、運動のなかで鍛えられてきた実践や知識、そしてこの世界への構えである。そこには、既存の支配的な枠組みに異議を差しはさみながら、その只中で別様の社会をつくってきた発想や知恵があり、それを見つめてきた本書には、そのエッセンスが随所に散りばめられている。

それらを遠いカナダの土地に閉じることなく、わたしたちが生きる場所とのあいだにも「連続線」を引こうと試みているのもまた本書である。巻末をひらくと、著者自ら作成したというていねいな事項索引がある。多領域にまたがるキーワードがそこに並んでいるが、それぞれが本文中で明瞭にまとめられている。ぴんときた言葉から本書とつながることもできるだろう。刊行後に各地で重ねられてきた議論もまた、さらに別の場所へと線を伸ばしている。9月の合評会もまた、その一本になればと思う。

イベント概要

公開合評会『その土地に雨音は踊る――カナダ先住民運動の予示する社会』(鈴木赳生著、ナカニシヤ出版、2026)
日時:2026年9月26日(土)16:45-18:45
会場:同志社大学今出川キャンパス寧誠館31教室(ハイブリッド)
主催:グローバル地中海地域研究同志社拠点
事前申し込みについて
対面参加申し込み:不要、会場に直接お越しください。
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