PROJECTS

グローバル地中海地域研究 
同志社拠点の役割

本センターは現在、人間文化研究機構が推進する「グローバル地中海地域研究」の一拠点としても活動しています。ヨーロッパから中東、北アフリカを主とする地中海地域研究の射程をグローバルに拡張する同プロジェクトにおいて、本拠点はとくに国境を超えた移動と、それに伴うポストコロニアルな課題を検討していきます。具体的には、地中海を起点とする近代世界システムの誕生や戦後の移民政策を背景とする人々の移動の歴史を考察すると同時に、境界を超える人々を管理し、利用しようとする統治のイデオロギー(レイシズム、植民地主義)や政策と、それに抗する越境者たちの思想や運動を掘り起こしていきます。摩擦や対立を伴いながら地域間を接続/分断する越境的な力学を捉えるこの共同研究により、地理的境界にとらわれない新たな地域研究の確立に寄与することが、本拠点の目的です。

他拠点HP

国立民族学博物館拠点
東洋大学アジア文化研究所拠点
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)拠点

グローバル地域研究プログラム

各研究班の活動概要

「多文化都市と共生の危機」研究班

メンバー:南川文里、菊池恵介、森千香子、見原礼子、和泉真澄、上野貴彦、李定恩


ヨーロッパ地中海世界を軸としつつ、大西洋・太平洋へと広がりを持つ、海を超える人の移動と各地における多文化主義・共生の危機と課題を検討する。具体的には、ヨーロッパ地中海(欧州・中東・北アフリカ)、大西洋(欧州、アフリカ、南北アメリカ)、太平洋(アジア、北米、南米)を架け橋する人の移動、ディアスポラ、トランスナショナルな連帯について、近代世界システムの誕生を背景とするグローバルな構造と国家・地域・都市・身体などのローカルなスケールの相互作用、さらにジェンダー、セクシュアリティ、障害などとの交差性のを踏まえて分析し、移民研究、多文化主義研究に新たな視座を導入する。

「レイシズムと植民地主義」研究班

メンバー:板垣竜太、太田修、水谷智、駒込武、冨山一郎、呉永鎬、金尚均


植民地支配はその支配の秩序としてレイシズムを不可欠の要素としている。現代のレイシズムも、その継続、遺産、記憶という観点から捉えることができる。本研究班は、そうした観点から、緩やかに連携する4つの小プロジェクトにより、過去と現在、日本と世界をつなぐ共同研究を展開する。
①コロニアル/レイシャルな記憶のポリティクス:「戦争責任」とは相対的に区別される「植民地支配責任」論に関する研究をおこなう。
②継続する学知のコロニアリズム/レイシズム:かつて「人種学」の名のもとに各研究機関が収集し、現在さまざまな係争を引きおこしている人骨をめぐる問題を研究する。
③コロニアリズム/レイシズムのなかで生きる:コロニアル/レイシャルな社会のなかで生きるマイノリティの文化・教育面での実践を研究する。
④コロニアリズム/レイシズムの克服のために:ヘイトスピーチ、ヘイトクライム、レイシャルハラスメントの防止に向けた研究をおこなう。

「移民・エスニシティ」研究班

メンバー:松谷実のり、デブナール ミロシュ、安井大輔、山本めゆ、片田孫晶、許燕華、郝洪芳、朴沙羅、中村昇平、瀬戸徐映里奈、鈴木赳生


本研究班の目的は、多民族の共存・対立をはらむ日常的状況を、移民に焦点を置きつつ複数の歴史社会的位相から捉えることである。具体的には、人の移動やそれに伴う文化・政治・経済活動の越境、民族的共同性の形成と変容に関心のあるメンバーが、3つの連関する問いを軸に共同研究をおこなう。①移住先の国家による統治・管理の影響下で、移民はいかに自らのコミュニティを築き、それはいかなる契機や要因で変化するか。②この過程で、移民は移住元の〈故郷〉との関係性をいかに変えつつも保ち、ときに断ち切りながら生きるのか。③移民コミュニティと先住者のコミュニティは、地域でいかに関係を築き、ときに対立を折衝しつつ共存しているか。本研究班はこれらの問いに応じる経験的研究の成果を総合し、時間や場所、行為者の単一の視点から切りとる方法の制約を超え、複数の歴史社会関係が折り重なって多民族状況が折衝されていく動態を解明する。

「外交と移民」研究班

メンバー:崔紗華、藤田吾郎


本研究班は、外交と移民という二つの鍵概念を軸に、①人の移動の側面に焦点を当てながら国際関係のあり方を再検討し、②国際関係の視座から人の移動を再考することを活動目的とする。「外交と移民」についての研究は、欧米では重厚な蓄積がある。しかしながら、日本では「外交と移民」に関する研究はいまだ十分な考察が進んでいるとはいえない。軍事や経済に主たる関心を注ぐ国際関係研究では移民は主要なイシューとされず、移民が研究対象となる社会学では外交のあり方は等閑視されてきた。このように、従来別のフレームで語られてきた「外交」と「移民」というテーマを、本研究班は統一的なフレームワークに置くことで、テーマごとの共通点や相違点を浮き彫りにする。特に、アジア太平洋、南北アメリカ、ヨーロッパにおける諸事例に着目しながら、これまで見落とされてきた問題群に光をあて、共生を考えるための新たな手がかりを模索する。

「コロニアリティと社会的実存」研究班

メンバー:鈴木赳生、西尾善太


多文化・多民族が入りまじる社会状況に満ちた現代世界では、「多様性」が創造の原動力などと価値づけられる一方で、異なる者同士の深い対立が浮きぼりになっている。この窮状に対してすでに、「共生」「多文化」「移民」等をキー・ワードとした分野横断的な知が蓄積されてきた。だが問題は、その大部分が、この窮状の大元にあるコロニアリティ(いまも継続する植民地統治の影響)を十分に認識できていないか、有意義な形で記述・分析に組みこめていないことである。これに対して本研究班は、第一に、「共生の危機」がどのように植民地統治の過去と現在からうみだされているかを探究する。しかし他方で、人々の生活を植民地統治の影響のみから決定論的に説明してしまっては、よりよい生を求めて創意工夫をこらす人間的営みがみえてこない。そこで本班は第二に、コロニアリティの力を重視しつつも、他者との関係のなかで生きる人々の社会的実存に光を当てる。

「都市間連合と間文化主義」研究班

メンバー:上野貴彦


近年、都市内部の多様な住民同士の接触を重視する都市政策理念として「間文化主義(インターカルチュラリズム)」が注目される。同理念が地中海を越えた都市間交流に向けた外交イニシアチブから発展したものであるように、①地中海は、「共生」とその「危機」が顕在化する場であるのみならず、間文化都市連合(ICC)や「庇護都市(ciutat refugi)」など、都市間連合の実験場でもある。また、②地中海都市の取り組みは、文脈を大きく異にする東アジアにおいても、日韓都市での移民統合政策や難民受け入れの模索に間接的に影響を及ぼしている。そこで当研究班では、①複数の都市間連合を主導するバルセロナを起点とする、同市内外の多様なアクター間の協調・対抗関係の分析、②日韓の複数の都市におけるICC加盟検討と理念の受容が浮き彫りにする、地中海と東アジア両地域の差異に関する分析、という2つの関連した課題に取り組む。

「資本主義/民主主義」研究班

メンバー:菊池恵介


本研究班では、地中海世界(ブローデル)を起点とする「近代世界システム」の形成史を振り返ると同時に、現代の新自由主義グローバリズムへの対抗運動を検討していく。第二次大戦後、西欧の福祉国家や第三世界の開発主義のもとで階層格差の是正が図られたが、ソ連・東欧ブロックが崩壊し、冷戦が終焉すると、ワシントン・コンセンサスのもとで民営化、規制緩和、自由貿易などが推進されるようになった。その結果、中間層が収縮し、階層格差が拡大する一方、投機マネー化した巨額の余剰資金が金融市場を駆け巡り、バブル経済と金融危機を誘発するようになった。こうした富の集中は政治にいかなる影響を及ぼしているのか。本研究班では、排外主義の台頭など、グローバル化の政治的インパクトを検証すると同時に、地中海沿岸都市に広がるミュニシパリズムやアセンブリ、コモンズの再領有などのローカルな実践に注目し、民主主義を再生する筋道を模索していく。